【規格の話】防刃ベストの「貫通7mmルール」はどこから来た?~ 装備設計に影響を与えた医学研究 ~

防刃ベストやボディアーマーの性能を語る上で「貫通許容深さ」という考え方が登場します。
例えば、米国のNIJ0115.00などの国際基準となる防刃ベストの規格では、試験時に刃物が完全に防御しなくても、一定の深さまでの侵入は許容されるという設計思想が採用されており、その代表的な基準が 7mm です。

ではなぜ、7mmなのでしょうか。
実はこの数値の背景には、「人体の構造」を踏まえた根拠があります。

この防刃装備の設計思想を理解するうえで、非常に重要な研究の一つが、英国のAnthony Bleetman, Jules Dyerらによって2000年に発表された、次の論文です。

Ultrasound assessment of the vulnerability of the internal organs to stabbing: determining safety standards for stab-resistant body armour
(超音波による刺突に対する内臓の脆弱性評価:防刃ボディアーマーの安全基準を決定するための研究 )

この研究は、人間の体において皮膚から内臓までの距離を測定し、「刃物がどの程度侵入すると危険なのか」を医学的に調べたものです。研究結果は英国や米国の防刃装備規格に取り入れられ、世界中のボディアーマー設計に影響を与えています。

本記事では、この研究をもとに「なぜ防刃規格に貫通許容深さが存在するのか」を考察しましょう。

まず前提として、防刃装備の理想は「刃物が一切侵入しないこと」です。
しかし実際の装備は、重量・柔軟性・着用性とのバランスを取る必要があります。

完全に「どんな刃物を止める装備」を作ろうとすると、
・非常に重くなる
・硬くなり動きにくくなる
・高額になる
という問題が生じます。

そこで重要になるのが「人体にとって本当に危険な侵入深さはどこなのか」という問いです。

もし刃物が皮膚を貫いても、内臓(や動脈)に届かなければ致命傷になる可能性は大きく下がります。

つまり、防刃装備の設計には
「皮膚から内臓までの距離」
という人体の構造を理解することが不可欠になると考え、行われたのがこの研究です。

研究では、18歳から50歳までの健康なボランティア25名を対象に、超音波検査を用いて次の臓器までの距離を測定しました。

・肝臓 / 脾臓 / 腎臓 / 胸膜 / 心膜

さらに、実際の攻撃状況を想定して、一般的な超音波試験の仰向けだけではなく、直立状態や前傾姿勢といった複数の姿勢で測定を行い、さらに呼吸による臓器の移動も観察しています。

研究の結果、興味深い事実が明らかになりました。

人体には、非常に浅い位置に重要な臓器が存在するケースがあるということです。
最も皮膚に近かった臓器のデータでは、ある被験者において「皮膚からわずか9mm」という位置に脾臓が存在していました。

これは、防刃装備の設計にとって非常に重要な意味を持ちます。

もし刃物が9mm以上侵入すれば、内臓に到達する可能性があるということです。

この研究結果を踏まえ、英国Home Officeは警察用防刃装備の基準として
「装備内側から7mm以内で刃を停止させる」という仕様を採用しました。

なぜ9mmではなく7mmなのかというと
研究で確認された最小距離9mmに対して、
・個体差
・測定誤差
・人体の動き

などを考慮し、統計的な安全余裕(約99%信頼水準)を確保した結果、7mmという数値が設定されました。

つまり、この7mmという数字は人体の構造を基準に決められた数値なのです。

防刃装備の性能は、単に「刃物を止める力」だけで評価されるものではありません。

人体のどこに重要な臓器があり、どの程度の深さで危険になるのか。
姿勢や呼吸によって臓器はどのように動くのか。

こうした医学的な知見を踏まえて初めて、防刃装備の設計基準が成立します。

SSPでも、防刃装備の開発において様々な方向から人体構造などのデータを参考にしながら、装備の設計や改善を行っています。

防刃装備は、単に「強い素材」を使えばよいわけではありません。
人間の体を理解することが、防刃装備設計の出発点になります。

そして、その理解の基礎となっている研究の一つが、今回紹介した超音波を用いた臓器深さの研究です。

(参考:論文より)各臓器の皮膚からの深さ

論文全文は以下から確認できますので、ご興味のある方はご覧ください。

Ultrasound assessment of the vulnerability of the internal organs to stabbing: determining safety standards for stab-resistant body armour
Elsevier (2000)

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